ARCHIVE|EBISU CITY GUIDE Vol.0
ロックでクールなシティガイド
高橋:恵比寿新聞の高橋です。お願いします。「EBISU CITY GUIDE」が始まるきっかけを、自己紹介とともに301の大谷さん、宮崎さんからお話していただければと思います。
大谷:301の大谷と申します。グラフィックやウェブサイトやイベントの企画・プロデュースをやっています。もともと会社化する前は、「EBISU 301」というプロジェクトチームがあり、マンションの一室で仲間が集まっていろいろやっていたのですが、高橋さんと会ったのもそれがきっかけでしたね。
高橋:「モーニングパーティ」とか非常にエッジの効いたパーティを恵比寿でやってましたよね。そして、お隣が301の宮崎さんです。
宮崎:デザイナーの宮崎です。よろしくお願いします。
大谷:シティガイドのきっかけは、「COMMON EBISU」というスペースを恵比寿ガーデンプレイスでやるということで、なにかイベントをできないかと高橋さんから声をかけていただいて。それがちょうどロンドンの出張から帰って来たあとだったので、ロンドンと恵比寿とあとはポートランドを比較してみようというのが始まりです。
高橋:ロンドンと恵比寿を比べると、家賃が高い部分とか意外と似ているところがあるなあと思っていました。向こうだと家賃が高くて1人では払えないから、シェアハウスの募集をよくしているらしいのですが、恵比寿もそういう側面があって。比較してみたら面白いんじゃないかと思ったんです。
大谷:当初は、1~2時間のイベントをやる予定でしたが、その枠のなかでは100%伝えきれないという課題が見えてきて、何かイベントだけで終わらない形や情報を第三者にも伝えられる方法を模索していました。それから本を作りませんかという話になって、ガイドブックの話が出てきたところで企画が明確になっていきました。
高橋:僕は、恵比寿新聞というウェブマガジンをやっていて、ウェブでしか表現したことがなかった。だから、去年の10月に紙版をやってみたんです。すると、紙とインターネットでは見る人の層がぜんぜん違う。じゃあ、恵比寿のシティガイドを紙で作ってみたらいいんじゃないかということで。
大谷:そのときウェブには載っていない情報だけでやろうという話が出てきて、ロックな感じがしてかっこいいなと。それをテーマにしてみましょうということで一気に決まっていきましたね。ただ、もともとイベントをやるという話をいただいていたので、うまく絡められないかなあということで、公開型編集会議をやってみたらどうかという話になり。
高橋:僕らだけで作ることもできるのですが、いろんな人を交えて、いろんな視点で作るほうが面白くなるんじゃないかな。みんなが見る恵比寿はたぶんひとつではなくて、多様な恵比寿があるはず。それをどうやって表現していくのかを実験的に公開型編集会議という形でやってみたらどうなるかなと。
最終形が分からないままスタートして色んな人の意見を取り入れながらどう形になっていくのかがちょっと想像できないけど(笑)10月に出るという結末だけは決まっているという(笑)販売方法も今考えていて、僕は恵比寿に来ないと手に入らないようなものにしたい。
大谷:内容が面白いと思ってくれれば、欲しい人はそれでも買いにくる。わざわざ恵比寿に来ないといけないというローカルの感じは面白いですね。
高橋:値段は、3万くらいになるような(笑)
大谷:増刷しない設定で行きますか(笑)
ローカルな情報を、俯瞰の視点から切り取る
大谷:ガイドブックを作る体制を考えていたのですが、恵比寿新聞と301がまとめ役になり、ライターのポジションをみなさんに担っていただければと思っています。ある種、恵比寿新聞にも僕らにもない視点みたいなものがここから生まれて来ると、面白い。
高橋:テーマもまだ決まっていません。人を基軸にすると面白いという部分のみ決まっています。あの人が見ている恵比寿ってどんなかな、とか、その人しか見ていない恵比寿の表情を本にまとめる。
大谷:高橋さんとのつながりや、参加される恵比寿の方とのつながりから、皆さんの個性を活かし、それぞれの視点で切り取っていくと、完成系としてはさらに想像できないところに到達できるのかなと思っています。
高橋:一回で終わらせたくないな。毎年、いろんな恵比寿の人を見ていけるのが、面白いかもしれない。
大谷:そうですね。人軸でやっていくと、年ごとに出せそうですね。
大谷:テーマは、まだ決まっていないのですが、これから紙媒体のシティガイドを作っていくうえで、どういう視点で作っていけばいいのかを整理してみました。これが制作のコンセプトになるのではないかと思います。真ん中のラインが一般的な視点、上が俯瞰、下がローカル視点で、例えば「地球の歩き方」のような、いままでのガイドブックは、網羅的な情報を俯瞰したところからピックアップする視点か、ローカルの人がローカルの視点で切り取るというものでした。しかし現在は、インターネットで網羅的な情報は手に入る。スマホを持ち歩いているということは、その情報を常に持ち歩いているということでもあって。つまり、これまでの既存のガイドブックはみんなもう持っている状況であると。
大谷:じゃあ、これからはどういうものが面白いと言えるのか。対象はものすごくローカルだけど、視点はすごく俯瞰したかたち。これって今までに無かったんですよね。高橋さんは、ローカルの情報を持っていて、301はどうやって見せていくかという俯瞰の見方ができて、コラボレーションしていけば、実現できる視点になりそうです。
高橋:あと、誰が見るのかのというのもある。例えば、恵比寿に憧れている北海道の人か、初めて日本に来た人か、もしくは、恵比寿にいる人たちが見るのか。
大谷:広くなってしまうかもしれませんが、どれもありかな。北海道にいる人が読んでも面白いし、恵比寿にいるひとも「あ、そういうところあるんだ」と、自分たちの街を別の視点で見られるようにできれば。恵比寿に来たことがない人でも、街を歩いてみたいと思える視点から作れたら面白い。
高橋:できれば2カ国語にしたいですね。最近の恵比寿は、外国人が増えてきています。まだ17年ほどしかこの周りに住んでないのですが、増えていると感じます。オリンピックが近づいている証拠でしょうか。外国人がどういう日本を求めているか非常に気になる所で、2カ国語にして発信できたらなあと。
大谷:増えて来ている感覚は、リアルに感じる?
高橋:恵比寿に「一歩」というお店があるのですが、最近はお客さんのほとんどが外国人らしくて。「何しに来たの?」と、そこにいる方に伺ってみると、ランドマークというよりは、日本人がどんな生活しているのかが分かるディープでローカルなところに行ってみたいと言っていました。
ただ、日本語しか喋れないお店が多かったりとか、外国人が行けないような店が多い。だから、その辺も可視化できるガイドブックがあればとても便利。
大谷:みんなが持ち歩いてたらいいですね。
高橋:それをすごい夢見てる。今回は、説明会みたいなかんじなので、次回くらいからスペシャリストの方に海外へとどうやってPRしているのかを聞けたら嬉しい。宮崎さん、デザインはどうお考えですか?
宮崎:ネットに無い情報をまとめていくと、内容はしっかりしていくと思うので、紙の本であることの良さを感じられるようなデザインがいいかなと。内容によって最終的には”物質”として手に取るとちょっと嬉しくなるようなものになれば良いですね。
高橋:モノ感、みたいな?
宮崎:そうですね。
大谷:この後は、世界のガイドブックを紹介しながらその辺の”モノ感”の話をできればいいなと。紹介した後は、ここにいるみなさんでオープンディスカッションをしようと思います。どんな切り口、テーマを取り入れたら面白いかをフランクに聞けたらいいなと。少し考えながら聞いていただけたらと思います。
世界のガイドブックの現在
<CEREAL MAGAZINE>
大谷:一個目はロンドン発の「シリアルマガジン」。テーマは、「for modern travelers」。もともとは雑誌ですが、ガイドブックも。ロンドンとかパリとか都市を切り取っています。面白いのが、これまでのガイドブックとは違って、美しい写真と少しのエッセイがあるだけという。
高橋:俺もおもしろいなって。すごい視覚的だね。
大谷:ご飯の写真とかレストランの写真だけが載っていて、あとは連絡先が書いてあるだけ、みたいな。ミニマルにまとめられています。いまっぽいまとめ方でデザインも面白い。
高橋:僕も読ませてもらったけど、写真の力がすごくて、行ってみたくなる。言葉がないから先入観がない。言葉で説明されることで、思い込んじゃうものってあるけど、写真しかないっていうのは、衝動的に行ってみたくなる。良い設計だなあ。
宮崎:写真も一定のトーンで撮られてますね。アングルとか、縦横のグリッドとか、白を基調にしているとことか。
<MONOCLE MAGAZINE>
大谷:次は、もともとはロンドン発の「モノクルマガジン」。最初の「シリアルマガジン」と同じように、トラベルガイドです。東京も取り上げられました。面白いのは、ものすごい東京のローカル情報を扱っていること。これまでの観光ガイドの有名なところじゃなくて、ローカルに詳しいひとが探して行くようなところが取り上げられている。デザインは、情報がぎゅっと詰め込まれているので、ガイドブックっぽいんですけど。
高橋。俺も知らない情報がいっぱいあった。ものすごいマニアックで、これはだれがやってるんだろうって思った。
宮崎:これを外国人のチームがやっているのも驚きです。デザイン的なところで言うと装丁も変わっていて、きちんとしたハードカバーで作られています。これまでのガイドブックって使うときだけ買って、終わったら捨てるって使い方だったと思うのですが、これは保存したくなるような装丁。ここもこれまでと違う視点かなあという。
高橋:モノクルさんって、いま富ヶ谷にモノクルジャパンって、あるよね?富ヶ谷新聞見て知ったんだけど
大谷:モノクルカフェできましたね。
高橋:次回とかモノクルカフェのひとにきてもらって話聞けたらおもしろいかな〜。富ヶ谷新聞の編集長が知り合いなので。
大谷:いいですね、それ、やりましょう。この場で決まって行く感じがいいですね。
<LOUIS VUITTON CITY GUIDE>
大谷:次いきます。これはすごいですよね、ルイヴィトンが出してるトラベルガイドなんですけど、ちゃんとケースに入ってる。開けると、表紙がピンクで、中のページもピンク。外側はこんな作り込んでるのに、中はライトに渋谷の居酒屋のシーンなどが生っぽく撮られています。でも、ピンクで統一した世界観を作っている。
高橋:そういう情報をルイヴィトンが発信しているのがすごい。しかも名店ばかりで。
宮崎:色で統一することで、生っぽさを抑えて、トーンを統一しているのかなって。
高橋:ルイヴィトンがやってるから成立するところはありますね。これを恵比寿新聞がやっても頭おかしいのかなーって(笑)
大谷:彼らのコンセプトが、カルチャーのハイとローを切り取るというものみたいで。都市における、文化のハイとオーは、毎年変わっていくものだから、毎年出しているそう。僕の英文解釈が間違ってなければ……。
高橋:リサーチの一環なんだろうなあ。リサーチしたものを、せっかくだから公開しようってことなんじゃないかな。
大谷:六都市か七都市のシリーズなのですが、コンプリート板は、ボックスも付いて高くなりますね。
大谷:次は、GINZAで連載していたものをまとめた本。なぜピックアップしたかというと、テーマはワインでそれがすごくマニアックなんです。「自然派ワインはロックだ」という合い言葉だけで、ひたすら語り続けてます。
高橋:めちゃくちゃ面白かった。
大谷:やってることがゆるいのと自由で、そこが面白いですね。会話のどこかでワインのくだりが出てくるだけ、みたいな。ほとんどフォーマットが決まってないんです。それが逆にいい感じになっていて。熱量というか、「好き」という思いがすごすぎて、この人たちが回っているようなお店はすごく洗練されているんじゃないかなと読んでいる側が思うくらいです。自然派ワインがすごいところだけまわっているかというとそうではなくて。下町っぽいところとか、京都とか大阪行っちゃった!とか自由で。自然派ワインも自由な育て方したりして作り手さんも変わった人が多い。だから、自然派ワインのテイストとロックが凄く会うんだろうな。テーマがすごく良い。この自由さをどう伝えればいいのか。弾き語りを突然して、最後の方で「このワイン合うよな」みたいな記事があって(笑)
宮崎:結構マニアックな話をしてるのに、それを感じさせないデザインの工夫もあります。ワンポイントで可愛い感じになっていたり、マニアックな話してるのに閉じてない。
大谷:この本が面白いのって、人となりが見えて、ワインが好きな人が語っているていう視点が入っているところ。シティガイドに落とし込むとしたら、場所がどうこうという前に、これを紹介している人がどんな人だろうって気になる形がいいかもしれません。紹介している人に魅力があるから、この人が紹介すれば間違いないという構造にするのはありかなと。
高橋:たしかに恵比寿ってスペシャリスト多いですよね。そういう人たちだけを切り取ることで、そういう人に会いに行くっていう道を作るガイドブックっていうのも面白いかも。この本は、すごく好きです。
<TO Magazine>
大谷:次行きます、「TO Magazine」。これはコンセプト勝ちですね。すごく若い人が作っていて。各区ごとに特集して一冊作っています。マニアックな情報を切り取れるのは、編集長が特集する区に住みながら作るかららしいです。
高橋:この前、対談をやってましたね。すごくアバンギャルドな編集長が住み、聞き、表現しているっていう泥臭いことをしてるって。
大谷:ローカルによるローカルのためのっていう空気感が満載で。個人的には、こういうローカルな情報をもっと俯瞰して切り取っても面白いかなと。「シリアルマガジン」みたいに情報は絞りこんでるけど、視点はローカルとか。
高橋:こういう情報誌って、住民からするとたまに「いや、これは違うよ」というのがあるけど、「TO Magazine」はちゃんと地元の人も取り込めるような情報を出してる。ローカルな人と外の人たちも取り込めるというすごいメディアだなあと。
大谷:一般の人も買える文芸タウン誌みたいな感覚なのかも。
<TOKYO TOTEM>
大谷:最後は、オランダのアムステルダムに住んでいるチームが作った、「TOKYO TOTEM」。トーテムは道しるべという意味です。
高橋:これはすごく面白かった。
大谷:作っている人デザインチームじゃなくリサーチャーなんだそう。未来学とか社会学とかを研究しているチームが、研究のために作っているらしいです。彼らが面白いのは、純粋に観光とかローカル情報を知りたいということではなくて。彼らが、どう東京を見ているかというと、「東京は成長が止まってしまったと思われる巨大都市、”Still city”である。」と。経済的には豊なんだけど、ある種、成長しきった都市が東京。彼らが知りたかったのは、「個々人がいかにして東京を居心地の良い場所として感じられるのか」ということ。静止している都市で、どうやって居心地のよさを見つけていくかというのが、都市の未来に繋がるんじゃないかということを追求していて。ぱっと見、テキトーなのかと思ったら、実は壮大なテーマが裏に潜んでいる。
大谷:作り方も面白くて、オランダ人の2人組が中心となって、東京でワークショップを開催して、バックグラウンドが違う41人くらいに集まってもらって。その人たち独自の視点で、どんな切り口で東京を見ているかを聞いて作っている構成らしいです。レイアウトもページによってバラバラで、それぞれにページを与えて、どう構成していくかは自由にやっている。これから始まる僕らの編集のやり方に近いのかなと。どういうふうにやってたか気になるなあ。呼んでみたいです。
高橋:事例だけでもいろんな切り口が出てくるね。じゃあ恵比寿ではどうやっていくのか。
大谷:世界のガイドブックの紹介は、これで終わりです。「TOKYO TOTEM」の形が、今回の参加型の形に相性が良さそうです。彼らは、ワークショップという形でしたが、僕たちはオープンディスカッションで、最終的に僕らがまとめるかたちでやっていければいいなと。みなさんがやってみたいことをこれから聞いていけたらと思います。恵比寿にお住まいの方だったら、こういう切り口あるんじゃないかとか、なんでも構いませんのでよろしくお願いいたします。僕たちからのレクチャーもここで一旦終了とします。ディスカッションで出た意見は、後日ウェブ上でまとめられたらと思っています。
ディスカッションまとめ
恵比寿にお住まいの方はもちろん、恵比寿へと働きに来る方、恵比寿にお店を構える方、編集者、デザイナーなど、バックグラウンドの異なる視点からガイドブックのアイデアが集まりました。
・ここにいる人自体が、それぞれフューチャーしたい人を取り上げる
・書き手の顔が見える記事が面白い
・子供の視点から見たらどうか
・ネットに載っていない情報としてのにおい
・感情軸で、ここに来たらどういう気持ちになりたいかをインデックスにする感情軸マッピング
・ガイドブックに町内会情報も入れられたらうれしい
・働いている人たちのバイブル的なもの
・実際に行ってもらって、その場所で新しい発見ができる仕掛け
・作り手の思いがふんだんに詰まっているもの。作り手がどれだけ恵比寿のことが好きなのかがわかるもの
・ガイドを買った人しか見れないような、昔のビール工場の解放日みたいなイベントがあったらいい
・長いスパンで使うことを想定したユーザーのマスターコレクションになるのではないか
・お金を使わなくてお刺激を受けられる体験とか、楽しみ方のバリエーションを見せたい
・恵比寿を知らない人と、実際に生活した方とのギャップを見てみたい
・子供編集部があったらいい
・紹介された人が、数珠つなぎで人を紹介していく
・外国人が来てくれるようになるようなガイドブック
・地理で見る、歴史で見る、形で見る、お店で見る、となど様々なレイヤーで切り込んだガイド
・ガイドを読まないような子供世代から、おじいちゃんまで手に取れるガイド
・書き込むスペースや下にクイズがあって思わず書いちゃうとか、読んでる人が参加して初めてできあがるもの
ディスカッションのなかで出たアイデアは、これから定期的に開催される公開編集会議にて、参加者を含む編集部の話し合いで実現を検討していきます。次回以降も、みなさんのアイデアを取り入れながら、エビスシティガイドを作り上げていきますので、こんなことをやってみたい!というアイデアがありましたら、ぜひ編集会議へご参加ください。
次回詳細は、こちらからどうぞ。